■「数学学習」での具体的利用法
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[御案内] このページでは,数ナビ(数式処理電卓)を
数学学習の具体的場面でどのように利用すべきかについて紹介します.
計算結果やグラフの確認のみならず,
計算の途中経過や,自分で抱いた疑問に対しても対応することができ,
数式処理機能を「思考のツール」として活用することできます.
それが,「数学ナビゲーター」と名付けられた所以です.
「数ナビ」を活用して,数学理解をさらに深めていただきたいと思います.
以下では,TI-89titaniumの場合の利用例を示します.
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- 例題1 方程式 \(\small x^3-3x+2=0 \) を解く
- 例題2
不定積分 \(\small \displaystyle \int\frac{x}{(x+2)(x-1)}\,dx\) を求める
- 例題3
微分方程式 \(\small \displaystyle y'+y=e^{-x}\) を解く
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[お知らせ]
グラフ電卓を所持していないときは,
数式処理ソフトをインストールすると同様のことができます.
多様なOS(Linux, Windows, MacOS, Android)に対応して無料で利用できる
数式処理ソフトとしてMaxima
があります.スマホやタブレットにインストールすると,
いろいろな式や微積などの計算問題の答えや、
関数のグラフ確認をするとき非常に重宝します。
下記は,Andoroid版の解説本です.
コマンドはAndroid版もPC版も同一なので、
iPhone所持の方はPC版のコマンドレファレンスとして利用することができます。
フリーソフトなので,一度試してみてください.
いつでも・どこでも・スマホで数学!
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■方程式 \(\small x^3-3x+2=0 \) を解く
- (1) 方程式 \(\small x^3-3x+2=0\) の解法
この方程式の解は,solve機能を利用するとすぐに分かります.
\[\small {\rm solve} ( x^3-3x+2=0, x )\] とするだけです.
解として \(\small x=1~{\rm or}~x=2 \) が表示されます.
解き方が分かっているときは,この機能を利用することで自分の求めた解が
正しいかどうかを確認することができますが,
解き方が分からないときは,どのようにすればよいのでしょうか.
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- (2) 式 \(x^3-3x+2\) の因数分解
左辺の式を因数分解できればよいことが分かっているときは,
\[\small {\rm factor} (x^3-3x+2) \]
とします.\(\small (x-1)^2(x+2) \) が表示され,
\(\small x=1 \) が2重解になっていることが分かりますが,
因数分解の仕方が分からないときはどのようにすればよいのでしょうか.
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- (3) 式 \(\small x^3-3x+2\) への値の代入
この式の因数分解を考えるには因数定理を理解している必要があり,
値を代入して0になるような数値を自分で見つける必要があります.
この式の場合は \(\small x=1\) が1つの値であることにすぐ気づくべきですが,
気づかないときは \(2\) の約数を代入して試すことになりますが,
値を代入して確かめるのは代入する値によってはちょっと面倒です.
代入機能を持つ記号「|」を利用すると,候補となる値をまとめて代入することができます.
\[\small x^3-3x+2~|~x=\left\{-2, -1, 1, 2\right\}\]
とすると \(\small \left\{0~~4~~0~~4 \right\}\) が表示され,
\(\small x=-2,~1\) が求める値であることが分かります.
ただし,実際に因数分解するには多項式の除算を行って
商を求める必要があります.多項式の割り算を手計算で行うのは,
ちょっと面倒です.
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- (4) 除算 \(\small (x^3-3x+2)\div(x+2)\) の計算
数式処理機能の一つに,分数を真分数に変換する機能「propFrac」があります.
たとえば,\(\small \frac{x^2-3x+2}{x+2} \) の場合は
\[\small {\rm propFrac}( (x^2-3x+2)/(x+2) )\]
とすると \(\small \frac{12}{x+2}+x-5 \) が表示されるので,
商が \(\small x-5\) ,余りが \(\small 12\) であること,したがって
\[\small x^2-3x+2=(x+2)(x-5)+12\]
と表されることが分かります.そこで,\(\small x^3-3x+2\) を \(\small x+2 \) で割ったときの
商を求めるために
\[\small {\rm propFrac}( (x^3-3x+2)/(x+2) )\]
とすると \(\small x^2-2x+1\) が表示されるので,
\[\small x^3-3x+2=(x+2)(x^2-2x+1)\]
と因数分解されることが分かります.
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- (5) 関数 \(\small y=x^3-3x+2\) のグラフ
式の計算だけであれば以上のことで済みますが,
数学理解を深めるには関数 \(\small y=x^3-3x+2\) のグラフと一緒に理解しておく
ことが必要です.グラフを表示させると,\(\small x\) 軸と \(\small x=-2\) のときに交わり,
\(\small x=1\) のときに接していることが分かります.
また,共有点の座標は,このグラフ画面からも求めることができます.
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- (6) 関数 \(\small y=x^3-3x+1\) のグラフ
与えられた関数のグラフを確認できた後は,
その係数をちょっと変えるとどんなグラフになるのだろうか,
ということも気になります.手計算でそれを確認するのは面倒ですが,
グラフ電卓であれば式を入れるだけで簡単に確認することができます.
また,\(\small x\) 軸との共有点の座標も求めることができます.
その座標は方程式 \(\small x^3-3x+1=0\) の解であるので,
solveを利用することで求めることができます.
3次の場合は解の公式がありますが,
その公式に素直にあてはめると3乗根や虚数単位を含む形になるので,
そのような場合は数値解で返されます.
また,
5次以上や超越方程式のように解の公式が存在しないような方程式のときは,
solveは自動的に近似解を計算します.
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- (7) 関数 \(\small y=x^3-3x+1\) の値の変化
数ナビの便利なところは、グラフと数値の関係を即座に切り替えられることです。
\(\small x\) の刻み幅を自由に変更することができるので、solve機能を使わなくても、
刻み幅を細かくしていくことで共有点の座標を数値的に求めることができます。
\(\small x\) の刻み幅を、最初の図は「0.1」、2番目の図では「0.01」としています。
刻み幅の値をどんどん小さくしていけば、
この画面からでも必要な精度の値を求めることができます。
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■ 不定積分 \(\small \int\frac{x}{(x+1)(x-2)}\,dx\) を求める
- (1) 不定積分 \(\small \int\frac{x}{(x+1)(x-2)}\,dx\) の計算
数式処理機能を利用すると,微分積分の計算を式のまま行うことができます.
不定積分を求めるには,積分を行うコマンドが割り振られているキー「\(\small \int\)」を
利用して
\[\small {\small \int}(x/(x+1)*(x-2)), x)\]
とするだけです.Nspireの場合は,数式テンプレートを利用します.
結果は対数の性質を利用してまとめられて
\[\small \frac{\ln\left((x-2)^2|x+1|\right)}{3}\]
として示されます.積分定数は省略されます.
\( \ln \) は自然対数です.
ただし,結果はまとめた形で示されるので,
自分で行った計算結果が上式と一致するかどうかは把握しにくいかもしれません.
- (2) 積分結果の展開
積分結果が対数関数で表される場合は,
自分の求めた解をまとめるか,あるいは表示された解を展開します.
展開を行うコマンド「expand」は,
単なる多項式の展開ばかりではなく,このような場合にも利用することができます.
\[\small {\rm expand} (\cdots) \]
「\(\cdots\)」 の部分には(1)の積分結果を代入します.
自分で打ち込む必要はなく,履歴画面から取り入れるだけで代入されます.
次のような結果が表示されます.
\[\small \frac{\ln(|x+1|)}{3}+\frac{\ln((x-2)^2)}{3}\]
この式をみれば,自分の求めた結果の確認ができるでしょう.
このように,答え合わせを行うには,
表示された結果を自分で変形しなければならない場合がありますが,
それは対数の性質による変形への理解を深めることにも繋がるものです.
- (3) 微分することによる確認
不定積分は微分計算の逆であることを理解している場合は,
積分結果を微分して被積分関数に戻ることを確認することでも積分結果の
確認をすることができます.
(2)の結果を微分するには,微分の計算を行うコマンド「\(\small d\)」を利用して
次のようにします.
\[\small d(\cdots, x)\]
「\(\small \cdots\)」には(2)の結果を,または自分で求めた計算結果を代入します.
その結果は,つぎのようになります.
\[\small \frac{1}{3(x+1)}+\frac{2}{3(x-2)}\]
部分分数に分解された状態で表示されて,
必ずしも元の被積分関数と同じ形では表示されません.
そこで,この式を通分してみます.
- (4) 微分の結果を通分することでの確認
分数式の通分を行うコマンドは「comDenom」(common denomitator)です.
\[\small {\rm comDenom} (\cdots)\]
「\(\small \cdots\)」の部分には(3)の結果を入れることで,被積分関数が表示されます.
\[\small \frac{x}{x^2-x-2}\]
分母は展開されて表示されます.
有理関数の不定積分の求め方を理解している場合は,
以上のような方法で,表示結果に多少の変形を交えることで
自分の求めた積分結果の確認をすることができます.
では,部分分数への分解の仕方が分からない場合はどのようにすればよいのでしょうか.
- (5) 部分分数分解
多項式の展開を行うコマンド「expand」には,
有理式を部分分数に分解する機能もあります.
\[\small {\rm expand} (x/((x+1)*(x-2)))\]
とするだけで,
\[\small \frac{1}{3(x+1)}+\frac{2}{3(x-2)}\]
が表示されます.
しかし,このような分解はどのようにして行っているのでしょうか.
自分で分解できないと,この不定積分の計算を行うことができません.
- (6) 部分分数分解の計算
部分分数分解は,まず分母を因数分解して,
通分するとその分数式になるような簡単な分数式の和で表すものです.
分母が \(\small (x+1)(x-2)\) であるので,
\[\small \frac{x}{(x+1)(x-2)}=\frac{a}{x+1}+\frac{b}{x-2}\]
の形に分解することができます.
分子の定数 \(\small a, b\) を求めるには,
分母を払って両辺の係数を比較して連立方程式を作り,
それを解くことになりますが,
式が複雑になると,その計算はちょっと面倒です.
- (7) 分母を払う計算
数式処理機能を利用すると,
あたかも自分で行っているかのような感覚で分数式の分母を払うことができます.
最初に,次の式を入力します.ただし,
\(\small a, b\) に何かの値が代入されているときは,「DelVar」を利用して事前にその値を消去しておきます.
\[\small \frac{x}{(x+1)(x-2)}=\frac{a}{x+1}+\frac{b}{x-2}\]
次に,分母を払うために,両辺に \(\small (x+1)*(x-2)\) を掛けます.
実際には,「\(\small *(x+1)*(x-2)\)」とするだけです.
いきなり演算記号が打ち込まれると,直前の結果に対する操作として認識されます.
右辺は展開されて降べきの順に整理され,次の結果が表示されます.
\[\small x=(a+b)x-2a+b\]
この式の両辺の係数を比較することにより,
次の連立1次方程式が得られます.
\[\small a+b=1,\quad -2a+b=0\]
これを解くことで,\(\small a=\frac13,~b=\frac23\) が得られます.
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- (8) 連立1次方程式を解く
与えられた有理式が少しこみ入ってくると,
この連立1次方程式の解法もちょっと面倒になってくるかもしれません.
そのようなときは,solve機能を利用することができます.
TI-89の場合は,
\[\begin{align*}
\small {\rm solve}&\small (a+b=1~~ {\rm and}\\
&\small -2a+b=0, \left\{a, b\right\})\end{align*}\]
TI-Nspireの場合は数式テンプレートを利用します.
結果が \(\small a=\frac13\quad {\rm and}\quad b=\frac23\) として表示されます.
数式処理機能は最終的な結果を表示させるばかりではありません.
(5)〜(8)の計算過程も確認できるので,自分の解答が誤っているときは,
どの部分の計算を間違えたのかをチェックすることもできます.
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■ 微分方程式 \(\small y'+y=e^{-x}\) を解く
- (1) 微分方程式の一般解
微分方程式を解くコマンドは「deSolve」です.
\[\small {\rm deSolve} (y'+y=e^{-x}, x, y)\]
として微分方程式と変数を指定すると,通常の教科書で扱う程度の1階や2階の
微分方程式であれば一般解を表示することができます.
この例の場合は
\[\small y=(x+@1)e^{-x}\]
が表示されます.
「@1」は任意定数で「deSolve」を実行するごとに番号が増えていきます.
Nspireでは,\(\small c1\)で表示されます.
- (2) 初期条件を与えた解法
応用場面で現れる微分方程式は,多くの場合は初期条件や境界条件のもとでの
解を考えることになります.
たとえば,\(\small y(0)=1 \) という初期条件を与えた解を求めるには,
\[\small {\rm deSolve} (y'+y=e^{-x}~~{\rm and}~~y(0)=1, x, y)\]
とします.
\[\small y=(x+1)e^{-x}\]
が返されます.
一般解から自分で計算して求めるには,
一般解に初期条件を代入して任意定数 @1の値を求めることになります.
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- (3) 初期値問題を自分で解く
一般解を求めた後に初期条件を満たす特殊解を自分で求めるには,
一般解に初期条件を代入して任意定数の値を具体的に求める必要があります.
得られた一般解に値を代入するには,「|」を利用して
\[\small y=(x+@1)e^{-x}|x=0~~{\rm and}~~y=1\]
とします.この例の場合は暗算でも求められますが,式が複雑になる場合は,
代入した式をsolveを利用して@1について解くことで任意定数の値が求められます.
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- (4) 勾配場と解曲線
1階の微分方程式 \(y'=f(x,y)\) を学ぶ場合は,
単に一般解や特殊解を求める計算方法ばかりではなく,
「勾配場」としての理解を得ることが必要です.
微分方程式 \(\small y'=f(x,y)\) が与えられると,
解が分からなくても各点 \((x,y)\) での解曲線の接線の傾きが分かります.
そこで,平面に格子点での接線を短く書き込むことで,
解曲線がどのような状況になっているかの概略を把握することができます.
簡単な微分方程式であっても,その図を作成することは煩雑で時間がかかることから,
教科書でもあまり触れられることがありません.
しかし,微分方程式の意味を理解する上では必要な理解です.
数ナビ(数式処理電卓)は,
この短い接線を書き込んだ図(勾配場という)を表示することができます.
さらに,その図の中で初期値を指定すると,解曲線を描画することができます.
「微分方程式」の大域的な意味を理解させるには、
この図は是非ともみせたいところです。
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