平成12年2月24日 高専数学教官 各位 石川高専 阿蘇和寿 一関高専 梅野善雄 金沢高専 佐伯昭彦 東京高専 佐藤義隆 福井高専 長水壽寛 (50音順) 数式処理電卓の普及促進について 学年末のお忙しい日々をお過ごしのことと思います。 さて、昨年の日数教秋田大会でグラフ電卓の数学教育での利用 についての発表が幾つかありましたが、その後、この電卓につ いていろいろ調べてみると、この電卓は数学教育のあり方を劇的 に変える「とんでもない電卓である」ということが分かってき ました。 具体的には、テキサスインスツルメント社の TI-89, TI-92Plus という電卓ですが、マセマティカの小型版と思った方がこの 電卓の能力を正しく伝えています。高専や大学教養レベルの 数学は、これらの電卓のキーを押すだけで済むといっても過言 ではありません。数式処理をを含まない単なるグラフ電卓に TI-83 というのがありますが、この電卓だけでも、数学教育 にとっては相当の効果が期待できます。 そして、留意すべき点は、海外では、このようなグラフ電卓 の数学教育上の意義について10年近く前から注目し、授業に 積極的に活用して数学教育の内容改革がすでに押し進められ てきているということです。 アメリカでは、このような電卓の授業での利用がすでに常識 化し、州によっては州予算で州内の全生徒の分を購入して与 えているところもあるようです。オーストリアでは、TI-92 に組み込まれているパソコン用の数式処理ソフトDERIVE を 利用した教育が、1991年の段階で「全高校生」に行われてい ます。(現在は数式処理電卓に置き代わっているようです。) 数式処理電卓を含むグラフ電卓の数学教育への普及状況は、 世界的に見ると指数関数の急勾配部分に該当していると言う人 もおり、この電卓に無関心な先進国は日本だけです。 この現状を放置することは、技術立国を唱える日本にとっては、 まさに「国家的な危機を招く」恐れがあります。 これは、決して誇張ではありません。 数式処理電卓は、数学教育の「質的革命」を引き起こすものです。 それは、「計算力重視」から「思考力重視」に転換した教育です。 この電卓を「有効に」活用すれば、それが「可能」です。そして、 海外では、すでに10年近く前からそのような教育が行われてきて おり「数学教育の革命が進行中」なのです。この電卓の利用法 に関するノウハウが、すでに十分すぎるほど蓄積されています。 この電卓を使いこなして大学に進学した学生の影響を受けて、 大学の側でもそれに対応せざるを得なくなってきています。 「分数ができない大学生」が話題になる日本とは大違いです。 金沢高専では、1996年からグラフ電卓TI-83 を利用した先駆的 な教育が行われています。また、福井高専では、この四月から 新入生に数式処理電卓TI-89 を購入させることが決定されました。 石川高専でも、TI-89 が42台購入され、すでに授業で試行されて います。そして、四月からは、あるクラスに1年間貸し出して 本格的な教育実践が行われる予定です。一関高専でも一クラス 分についての購入を検討中です。 おそらく、中学、高校では受験との絡みがあるので、このような 電卓の使用には躊躇があると思いますが、高専ではそのような縛り はありません。この電卓を数学と工学の両面から積極活用した場合 には、相当ハイレベルの卒業生を送り出すことが可能でしょう。 数学のみならず、専門科目においても、この電卓の使用は積極的に 押し進められるべきです。 日本では、この電卓の使用に関して最も機動性のあるのは「高専」 だと思います。そして、その効果が最も発揮されるのも数学の必要 性が高い工学系の学校である「高専」においてだろうと思います。 ある意味では、日本の数学教育の転換の舵取りを高専が担っている といっても過言ではないのではないかとさえ思っております。 どうか、数学教官各位におかれましては、騙されたと思って、 この数式処理電卓を一度試用してみてください。そして、その機能 を実感された上で、これを全学生に持たせた場合の教育上の意義や 効果について思いを巡らしてみてください。そこには、全く新しい 数学教育のあり方が見えてくると思います。そして、その思いを 他の数学や専門科目の先生方に伝えて、できれば学校ぐるみの動き にもっていっていただければと思います。その意味で、このメール を学内の先生方に転送されてもかまいません。 以下、この電卓に関連したURLを紹介します。以上で述べたことに 誇張があるのか、単なる我々の思い過ごしであるのか、どうか御自身で ご判断いただきたく思います。 この電卓の販売代理店は「(株)ナオコ」(http://www.naoco.com/) です。 一ヶ月無料で借りることができます。カシオも数式処理可能な電卓を 発売(CFX-9970G, albebra fx 2.0)していますが、日本での関心の薄さを 反映してか、米国(http://casio.com/calculators/)においてです。 テキサスインスツルメントの電卓に関するホームページでは、この 電卓を利用した教育に関して、いろいろな文献やニュースグループ が整理・紹介されています。 (http://education.ti.com/educationportal/index.jsp) 数式処理ソフトの国際コンペにおいて、TI-92 は Mathematica と並んで 首位タイになったことがあります。その問題とは、 ・(n^(\pi)+n^2+n^(\sqrt{2})+1 )^(-1/3) の n=1..∞ の和を求める ・(x + 1)^(2000)* (x^2 + x + 1)^(1000)* (x^4 + x^3 + x^2 + x + 1)^(500) の 展開式で、x^(3000)の係数を求める ・exp(x+y+x^2+xy+y^2+x^2*y^2)*f(y) のyに関する[0,1]での積分 = λ*f(x) を満たすλを求める などというもので、数学的に見ても相当高度の問題です。これは、 この電卓の能力が、教育用だけに止まるものではないことを示しています。 http://www.ti.com/calc/docs/swh/ti92wins.htm 米国でこのような電卓利用の教育を押し進めてきた Waits 教授の論文が、 ご自身のホームページ (http://emptweb.mps.ohio-state.edu/dwme/papers.asp)で 幾つか公開されています。例えば、 The Role of Hand-Held Computer Symbolic Algebra in Mathematics Education in The Twenty-First Century: A Call for Action! をご覧になれば、米国の状況やこれまでの経過、そして、この電卓の数学 教育上の意義や利用法等についての概略が分かります。 オーストリアの Technical College における、TI-92 を利用した数学教育に 関する実践報告は http://www.tiris.com/calc/docs/92teach.htm にあります。 オーストリアの15の Technical college (15〜19歳)の30クラス(750名)に対する 実践結果についてコンパクトにまとめられています。 数式処理可能なグラフ電卓に関心を持った高専教官のメーリングリストも 最近発足しました。実際の利用法などについて、これから話し合われてい く予定です。参加ご希望の方は、asoka@g.ishikawa-nct.ac.jp までご連絡く ださい。 (以上)